Interview: Bringing Shure and Yamaha Technology Together

ヤマハのデジタルミキシングコンソール「CL/QLシリーズ」とShureのデジタルワイヤレスシステム「ULX-D」とのシームレスな統合により、ユーザーの利便性は大幅に向上しました。両社の製品開発プロジェクトリーダーの目から見たヤマハとShureの密接なコラボレーションについてインタビューを行いました。

Kei:

2013年の時点でDanteという共通ネットワークオーディオ規格を通じて音に関するコラボレーションは確立できていましたが、コラボレーションとして本当に実現したかったのはミキシングコンソールからのワイヤレスレシーバー機器のリモート監視、リモート操作することでした。コラボレーションによって生まれる利便性についての両社の意見は一致していましたが、実現するまでのハードルが多かったこともあり、実現に向けて技術的な会話を何度も繰り返してきたからこそ実現されたコラボレーションと言っても過言ではありません。

Rob:

Shureでは常に、お客様のワークフローを改善する手法について検討していますが、その中でもワイヤレスマイクロフォンとコンソールのインターフェースの統合は、確実にユーザーが求めるベネフィットであると考えていました。そして今回、高いネットワーク性能を持つヤマハミキサーと、同社の多大なサポートを得ることで、その考えをパーフェクトに実現することができました。

Rob:

CL/QLシリーズは、技術的に洗練されているにも関わらず、とても簡単で直感的に使用することができます。様々なオペレーションスタイルにも対応できるため、各ユーザーが自分の好みに合わせたワークフローを構築できるコンソールですね。

Kei:

コンパクトなのに洗練された製品だと思います。これまでの製品開発で培われたマイクロフォン技術やワイヤレス技術に加え、今主流のDanteを標準搭載している上に、ユーザーインターフェースやリモートアプリケーション(Wireless Workbench)も非常に扱い易いです。Shureの開発担当者がULX-D製品の機能面やLED表現などの拘りを説明してくれた際に勉強になった部分や技術者として共感できる部分がたくさんあったことが印象的でした。

Kei:

ミキシングコンソールは入力機器があってこそ成立する製品ですが、ワイヤレスマイクロフォンが主流となってきている現代のライブサウンドシステムにおいて両社のコラボレーションは非常に重要なテーマでした。ワイヤレスマイクロフォンにおける電波強度やバッテリー残量、ミュートや異常状態などはミキシングコンソールエンジニアがミキシング最中にパソコン上ではなくミキシングコンソール上で常時把握しておきたい情報です。また、両社共に音を途切れさせないための品質や信頼性の確保を重要課題と考えていることから、今回のコラボレーションはライブサウンドシステムとしての信頼性向上を担う重要な機能提供と考えています。

Rob:

まったくKeiの言うとおりですね。ライブサウンドシステムでは、オーディオコントロールはほぼミキサー側で行われます。多くの現場でワイヤレスマイクロフォンは欠かせない存在であり、ワイヤレスマイクロフォン特有のRFリンクやバッテリー残量などの要素も、今ではオーディオシステム管理の一環であると言ってもいいのではないでしょうか。そうした中でヤマハのデジタルミキシングコンソールCL/QLシリーズとShureのワイヤレスシステムをこうして統合することで、他のチャンネル情報とともにワイヤレスマイクロフォンの状態についてミキシングコンソールから簡単にアクセスし、コントロールできることは大きなメリットです。

Kei:

私が本件を担当して先方と具体的に会話を進め始めたのは約1年数ヶ月前のことでした。その時点で開発はおろか、リモートコントロールするためのプロトコルも決定しておらず、双方で互いのプロトコルを提案することにそこから約半年くらいの期間を費やしました。双方の主張を聞き入れながら具体的な実現方法や問題点などを検討し合い、より良い方針を決定しました。プロトコルを決定した以降はスムーズに開発が進みました。

信頼性、利便性を目指す上で、ネットワーク制御に関しては容易に自動接続し、容易に切断しないことを特に重視しました。UI仕様に関してはミキシングオペレータの「見える位置にある」「ステータスが容易に理解できる」「全体も見渡せる」などを重視して設計しました。それらは社内に留めず、先方へのレビューや品質確認を繰り返して仕上げた結果です。

Rob:

今回のコラボレーションで興味深いのは、ワイヤレス機器のゲインをミキサー側からアクセスできるようになったことです。特に、Danteにより接続したワイヤレスチャンネルはリモートで調整可能です。これにより、有線マイクロフォンのインプットを調整するのと同じ場所からワイヤレスチャンネルのインプット信号レベルを今まで通りにコントロールすることができます。

Kei:

ヤマハ(日本)とShure(アメリカ/シカゴ)と2社の距離が離れていることで実際に顔を合わせて作業した回数はアメリカ2回、日本2回の計4回のみでした。基本的なコミュニケーションは主にメールでしたが、メールでは伝わりにくい内容に加え、言葉の壁により上手く意思疎通できず、開発が遠回りになっていたことは否めません。時には誤解したまま開発を進めていたこともありましたが、数少ない会話のチャンスを活かしながら、なるべく早くお客様へ機能提供したいという執念で双方が対応した結果、今回のコラボレーション実現までに至りました。こちらのペースに付き合ってくれたShure担当者には本当に感謝しています。「あ・り・が・と・う ! !」

彼らが日本に訪問した時に一緒に行った「焼き鳥」に大満足してくれた思い出は忘れられません。

Rob:

技術面でのコラボレーションは極めて順調でした。ヤマハが本プロジェクトに熟練のネットワークエンジニアを起用してくれたことをすぐに感じとることができました。おかげで私たちは極めてテクニカルなネットワーク関連のことやスクリーンの表示方法、ソフトウェアのテストに至るまで、すべての面で協業することができました。

その他にも思い出深いエピソードは2つ。1つは、土砂降りの雨が降る中、昼食を取ろうとレストランまで歩いて行ったときのこと(実はとても楽しかった!)。もう1つは、ソフトウェアの問題を解決するために、アメリカにある当社の研究所で、実際に顔を合わせてミーティングをしたときのことです。ソフトウェアの問題が解決するまで誰一人、席を立とうとしませんでした。すばらしいコラボレーションでした。

Kei:

両製品を既にお持ち頂いているお客様、今後購入を検討して下さるお客さまに対して新たな可能性、信頼性を提供できたと感じています。「ヤマハのミキシングコンソールを購入すればヤマハの枠を超えてあらゆる製品と繋げることができる」と思っていただけるように、今後もコラボレーションを継続して参りますので是非ご期待ください。

Rob:

今回のコラボレーションにより、オーディオシステム全体における作業を効率化し、システムレベルでの進化をお客様に実感していただければと願っています。設定に要する時間も短縮でき、本番中のシステムへの信頼も高まると期待しています。このコラボレーションにより製品それぞれの価値も高まりますが、その真の価値は、システム全体が提供するソリューションや、ユーザーが手にする活用方法にこそあると考えています。

ありがとうございました。

ヤマハ株式会社 PA開発部 ミキサー1グループ技師補 相馬 圭一郎 (Kei)

2009年入社。パワードスピーカー、アナログミキサー開発業務を経験した後、2010年よりR&Dスタッフとして北米の市場調査に携わる。帰国後、デジタルミキサーのネットワーク通信制御部の開発を担当しながらCL/QLシリーズのシステム設計リーダーを務める。DSRシリーズ、MGPシリーズ、CL/QLシリーズ、Rシリーズ、Tio1608-Dなどを手掛ける。

Shure社Product Development Rob Fuhlbrugge氏

エンジニアリング&製品開発担当シニア・ディレクター。2001年に入社後、新製品開発のための研究や技術リサーチなどを一貫して担当。