ライブサウンドをはじめとするプロオーディオ市場においても利便性の高いオーディオネットワークが普及しはじめています。なかでもヤマハはデジタルミキシングコンソール「CLシリーズ」を筆頭に、オーディオネットワークDanteを採用した製品群によりプロオーディオ市場を牽引しています。「SWP1シリーズ」はヤマハが満を持してプロオーディオ市場に投入するネットワークスイッチ。1995年に国内ルーター市場に参入してから20余年、IT機器とプロオーディオ機器の両方を知り尽くしたヤマハが提供するソリューションとはどんなものか。プロオーディオ部門の開発者にインタビューを行いました。

ヤマハ株式会社 PA開発部 CAミキサーグループ開発担当技師  神谷俊一

プロフィール:

1998年入社。アナログミキサー開発の後、2005年より技術営業として北米でデジタルミキサーの普及推進に携わる。帰国後、アンプやミキサーなどの商品企画を経て2013年よりデジタルミキサーを中心にPA機器の商品企画とハードウェア開発を担当。M2500、MXシリーズ、PM5000、MGシリーズ、M7CL48-ES、MY8-LAKE、TFシリーズなどを手掛ける。

ヤマハ株式会社 PA開発部 CAミキサーグループ技師補  寺田光太郎

プロフィール:

1999年入社。長年に渡りデジタルミキサーのGUI設計リーダーを務めてきたが、現在はシステム全般の設計リーダーをつとめる。PM1D、PM5D、M7CL、LS9、CLシリーズ、TFシリーズなどを手掛ける。

寺田:

近年、音響業界においてはDanteによるデジタルオーディオネットワーク化が進み、非常に高音質かつ便利になってきましたが、複雑なシステムになると取扱いはまだ難しいノウハウが多く、トラブルの一因になっていることも確かでした。そのため、これらのノウハウを意識しなくても良いような「簡単で安心できる機材」が作れないのだろうか、という思いがありました。

神谷:

また、CL/QLシリーズをはじめとしたDanteを採用した商品の購入を検討いただいているお客様から「スイッチはどれを買えばよいですか?」とのご質問も数多くいただいていました。弊社は音響や楽器の技術だけでなく、ネットワークの技術も持ち合わせていますが、当時のヤマハブランドのネットワークスイッチは販売地域が限られていたり、Danteで使うにあたっては一部の機能に制限があったりして、自信を持って提案できずにもどかしい思いをしていました。

寺田:

そこで、ネットワークスイッチ自体をDanteに最適化した設定とし、さらにヤマハネットワーク機器が持つ「ネットワークの見える化」機能とDanteが持つオーディオフローの管理機能を統合することで、お客様に「より安心して」「より簡単に」Danteをお使いいただけるソリューションが作れるのではないか?ということで本商品の企画が立ち上がりました。

神谷:

当時、社内でネットワークスイッチを開発していたSN開発部(SN:サウンドネットワークの略)にも日本国内のユーザーからDanteに関する問い合わせが届き始めていて、彼らもPA市場でのスイッチの使われ方に興味を持ち始めていましたので、双方の思惑が合致して、開発部をまたいだプロジェクトがスタートしました。

神谷:

理想的には高い信頼性を持ったケーブルに相当すると思います。ライブサウンド向けの仮設システムを常日頃デザインしたり運用したりするお客様にとっては、スイッチそのものの存在を考えることなく安心して運用できることは商品を選ぶうえで重要な判断材料になると考えています。

寺田:

そのためには「簡単に使いはじめられる機能」と「安心して運用できる信頼性」がともに備わっている必要があります。SWP1はこれらを提供できる数少ないネットワークスイッチの一つです。

神谷:

人の身体に例えると、血管のようなものだと思います。健康な状態を維持するためには、「システムのどこが通信のボトルネックになっているのか」 「以前とどこが違うのか」などを常に監視して改善していくことが必要です。

寺田:

SWP1とWindowsアプリケーション「Yamaha LAN Monitor」の組み合わせはうってつけであり、まさに「Managed なオーディオネットワーク」の世界を実現するための第一歩だと考えています。

寺田:

設定レスでDanteが安定的に動作するよう、プリセットなどの初期設定にこだわりました。また Yamaha LAN Monitor において、各ポートの通信帯域などのステータスがすぐに分かるようにしました。

神谷:

ハードウェア面では、仮設の音響システムで最も重要な、ケーブルの信頼性を確保するためにNeutrik社のetherCONとopticalCONを採用しました。そのため一般的な8ポート、16ポートのスイッチに比べると筐体が大きくなりましたが、そのおかげで追加の+24VDC入力を装備して2重化された電源や、静かな演目でも安心してお使いいただけるファンレス仕様を採用することができ、まさにPA市場が要求するスペックを満たしたネットワークスイッチとして仕上げることができました。

神谷:

多くのお客様はヤマハを楽器や音響機器のメーカーとしてご存知ですが、日本や特定の地域だけで展開しているこれら以外の商品やサービスがいくつかあります。ルーターなどのネットワーク機器もその一つで、90年代より自社開発した商品を販売していました。ヤマハならではの視点でネットワーク管理を手助けする機能を提案して搭載してきましたが、その中でもネットワークの「見える化」は特長的な技術で、SWP1の商品仕様にも生かされています。

寺田:

弊社は従来からネットワーク製品に力を入れてきましたが、「ワールドワイド」かつ「音響システムに最適化した製品」は今回が初めてと言えると思います。今後も、弊社の強みを統合してシステムソリューションとして皆様にご提案できるモノ作りをしていきたいと思います。

神谷:

ヤマハはCLシリーズで初めてDanteを採用しましたが、開発では様々な苦労がありました。商品を発売するに至り、お客様が各社の様々なスイッチと組み合わせてご使用いただく中で質問などを数多くいただき、システムの信頼性を確保するためにネットワークスイッチが大変重要であることがクローズアップされました。スイッチそのものの性能はもちろんですが、もともと情報ネットワーク構築のために搭載されている様々な機能の無数のパラメーターを、どのように設定するとより安定したシステムを構築できるのかと言ったノウハウが大変重要であることに気づかされました。また意外なところで、環境性能が高いスイッチの省電力機能がノイズの原因になる場合もありました。これらCLシリーズのユースケースなどから導き出したDanteネットワークユーザーが求める機能性に、SN開発部のネットワークの「見える化」をはじめとする技術を組み合わせるところから、従来のスイッチには無い様々なアイデアが生まれてきました。ネットワークスイッチの設定を工場出荷時にDanteに最適化し、さらにそれをいつでも呼び出せる形で搭載する。1つのネットワークスイッチを論理的に複数に分けて運用することができるVLANはライブサウンドの現場でも有用で、Danteネットワークの信頼性をさらに高めるためにDanteとその他のネットワークを分けて運用することができますが、その設定をスイッチ一つで呼び出せるようにする。従来はPCなどをつながないと確認できなかった各ポートのVLAN設定をパネルLEDで確認できる。同時に提供されるWindowsアプリケーションのYamaha LAN Monitor では、ネットワークの状態監視はもちろんのこと、Dante機器それぞれの運用状態も監視することができる。2つのチームが一緒に開発したことで生まれた、これら数多くの特長的な機能がSWP1のセールスポイントになりました。

寺田:

Danteの通信は連続的な音声の伝送ですので、通信のタイミングは一定に保たれていないといけません。しかし、LAN上の通信は一般的にはタイミングの保証ができません。そのため、安定的な伝送を実現するためには、タイムクリティカルに優先すべき通信とそうでない通信を分けて処理する必要があります。SWP1ではDanteが要求するこの優先度の段階に合わせ、内部の通信バッファなどの割り当てがあらかじめ最適な状態となるよう設計しました。そのため、多くの音声伝送を行ったとしても安定した通信を実現できるようにしました。また、音響に携わる方はネットワーク技術に精通しているとは限りませんから、ネットワーク用語を聞いても理解しづらい点があるかと思います。そこで、ユースケースに合わせたVLANの設定をプリセットとしてあらかじめ用意することにより、複雑な設定を行うことなく「いつも同じ設定」で扱えるようにしました。

神谷:

ネットワークスイッチの物理的な接続状態とそこにつながる機器の情報や各ポートの通信帯域がどれぐらい占有されているかといったことなどを1台のPCから集中監視することができます。これによって、どの機器がどこにつながっているかを、その場所に行かなくても簡単に把握できるようになります。

寺田:

ラックに入れ込んだ機材や設備として埋め込まれた機材など、現場ではすべての機器の接続状態が見通せるわけではありません。また、通信ケーブル内の通信状態も把握できませんから、不安を感じたままシステムを運用されていることも多いかと思います。

神谷:

Windowsアプリケーション「Yamaha LAN Monitor」でスナップショット機能を使えば、スナップショットを保存した時のネットワークの状態と今の状態を比較して差異を抽出することが簡単にできます。この機能は音響のシステムでも特に便利に使っていただけると考えています。例えば、リハーサルで安定した動作が確認できたネットワークの設定をスナップショットに保存しておくことで、どこかでケーブルが抜けたり、機器の電源が切れたり、翌日機器をつなぐポートを間違えたりしたときに、その差異がGUI上に警告表示され容易に知ることができます。仮設のシステムを管理するお客様にとって力強いサポートになると思います。

寺田:

SWP1 と Yamaha LAN Monitor の組み合わせにより、今まで見えなかったものが見えるようになります。そのため、これまでの不安を払拭し、安心してシステムを運用することが可能です。

神谷:

もう悩まなくてよいです (笑)

寺田:

ですね(笑)第一に「安心」の提供です。「Danteへの最適化」・「ネットワークの見える化」により、従来のネットワーク機器に比べてはるかに安心してDanteネットワークを運用いただくことができます。

神谷:

Danteはどのようなスイッチであっても基本的には問題なくお使いいただけますが、実際には多くのお客様が「どのスイッチを使えばよいですか?」と悩んでいらっしゃいます。このようなお客様にぴったりのスイッチがSWP1です。小さな規模から光ケーブルが必要になる大規模音響システムまで対応可能で、我々が準備したプリセットにより設定に悩むことなく梱包箱を開けてすぐにお使いいただけます。そして何より、ヤマハのDante対応機器とのテストが十分に行われていますので、万が一不具合が生じた場合でもトラブルシューティングが大変容易になります。

寺田:

一般的なスイッチとは異なりetherCON端子が付いている点も、特に仮設のPA現場などでは重宝されるのではないでしょうか。また、ネットワークの二重化・スパニングツリー・電源の二重化による、不意の切断リスクへの対応も見逃せません。第二に「簡単さ」の提供です。ネットワーク構成が大規模で複雑になると、お客様自身がネットワーク機器の設定見直しを迫られることがあるかと思います。通常のネットワークスイッチでしたら細かな機能を覚えつつ間違えないように設定をしなければいけません。また、現場が変われば再度設定を変更しなければいけないかもしれません。しかし、SWP1では良く使われるVLAN構成をあらかじめプリセットしてあります。さらに光ケーブルを用いれば、屋外ライブの場合など離れた場所にも伝送することができますから、幅広いユースケースに対応できると思います。

寺田:

安心して簡単に運用できることにより、いつしか当たり前のものとして常に現場に持ち込んで頂ける機材となることを期待しています。縁の下の力持ちで目立たない製品かもしれませんが、「安心」「簡単」の効果は絶大です。是非、その効果を体感してみてください。

神谷:

SWP1は、現在Danteネットワークと共に使われている一般的なネットワークスイッチに対して1クラス上の処理能力を持ったハードウェアを、ITの専門家ではないエンジニアの皆さんにも安心してお使いいただける初期設定や見える化ソフトウェアと共に提供する、ライブサウンドシステムのためのネットワークスイッチです。他のスイッチと比較したうえで、それらの中からSWP1を選択していただけると嬉しいです。

ありがとうございました。