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HPH-MT8インタビュー / TOKYO FM(株式会社エフエム東京)総務局 技術部長 兼 i-dio事業本部 開発部長 / 川島 修氏

Japan/Tokyo, Jul 2017

レスポンスが速いので音の輪郭が良くわかる。
高音域のリバーブの粒の表現が見事です。

高音域がよく伸びていて、一つ一つの音がわかりやすい。

FMの番組制作をされている川島さんですが、エンジニアの仕事でヘッドホンを使うのはどんなシーンですか。

外録(がいろく)、いわゆる屋外での収録、たとえば外でコンサートなどを収録するときに使います。もちろん可能であれば中継車やホールの控室などに機器を設置してスピーカーを置いて収録をするのですが、そういう環境が組めない現場も結構あるんです。そういうときは会場の中に機材を設置してヘッドホンでミックスします。その他はロケですね。外で取材をしたり、自然の音を録りに行ったりする時のモニターにヘッドホンを使います。うちの人間はほとんど定番のモニターヘッドホンを使っていますが、個人の好みで海外のヘッドホンを使っているスタッフもいます。

HPH-MT8を使ってみた最初の印象はいかがでしたか。

ハイレゾを意識しているからでしょうか、「高いところがすごく伸びてるな」という印象を持ちました。ほかのヘッドホンと比べて、おそらく 7kHzから上の高音域が非常にクリアになっているイメージがします。最近はあえて高音域や低音域をブーストしているようなヘッドホンが流行っていますけど、逆にHPH-MT8は非常にフラットに感じます。ただフラットでありながら、高音域がちゃんと聴こえるので、すごく輪郭が出ている。一つ一つの音が分かりやすい。あとはリバーブをかけたときに、リバーブの細かい粒が分かる、という印象を持ちました。

低域についてはいかがでしょうか。

ローに関しては「適正に出ている」という印象です。ボコボコ出るのではなく、ちゃんと輪郭を持って出てくれる。多分、それはレスポンスが速いからだと思うんです。低音はレスポンスが遅いと、ボヤンとしちゃうんですよ。それがドンッと出るっていうか、我々は「速い」という表現をしますが、レスポンスが速い感じがします。いつもの定番モニターのほうがレスポンスは遅い気がします。早いぶんだけ輪郭がはっきりと聞こえます。

いつものヘッドホンで「いい」と思ったミックスも
HPH-MT8に「ここダメじゃないの?」って言われている気がする。

FMラジオの番組制作で使うヘッドホンの選択基準とはどんなものですか。

僕らは放送したコンテンツがラジオでどう聴こえるかが勝負なので、モニターヘッドホンはすごく重要な役割を占めています。モニターなので音が分かることが一番。「快適な音」じゃなくていいんです。だからフラットに聞こえて「このバランスと音質で決めれば、どこのスピーカーで鳴らしても同じように鳴ってくれる」と思えるもの。一番困るのは、最近多いDJ系のヘッドホン。ローがすごく出るんですよ。そういうのを聴いているとローが出すぎているからミックスで削っちゃうんですね。それをラジオで聴くと、ローが全く出ていないものになってしまいます。ですからそういうヘッドホンは使えないんです。

HPH-MT8と定番のモニターヘッドホンとを具体的に比較すると、どんな点が違いますか。

フラットさは同じくらいだと感じます。実際に測れば周波数特性が違うでしょうけどね。どちらも、どこかの周波数が変に上がっているとは感じません。ただHPH-MT8のほうが高音域の粒はすごくよく分かります。今までそんなに気になっていなかったんですが、定番のモニターヘッドホンはちょっとハイ落ちしてるのかなって思いました。

長年慣れ親しんでいるモニターヘッドホンは簡単には変えられないのではないでしょうか。

20年ぐらい使っていて、慣れもあるのでたしかにそんな面はあります。でもいつものヘッドホンで聴いているものをHPH-MT8で聴いてみると「あ、こういうふうに聴こえるのか」という発見がたまにあります。定番のモニターヘッドホンのほうが「良く」聞こえてしまうんですよ。さっきレスポンスが鈍いっていいましたが、これは要するに、アラをうまくぼかしてくれるんです。それをHPH-MT8で聴くと「そうじゃないぜ」って言われてるような気がする。「ここダメなんじゃないの?」って教えてくれるみたいな感じがしますね。高域では特にそう思います。それと一番わかるのはリバーブ感。パーンって鳴ってだんだん音量が落ちるじゃないですか。HPH-MT8だとその切れぎわがよく分かるんです。これはたいしたもんだなと思いますね。

放送用のソースに関してはヘッドホンで収録しても最終的にはスピーカーを使うのでしょうか。

そうですね。外での録音だと現場ではヘッドホンでモニターして、最後の仕上げはスタジオのスピーカーでやります。いつもの定番ヘッドホンだと、ヘッドホンとスピーカーではどうしても差があるので、最後に補正します。その差はスピーカーとヘッドホンの違いだから仕方ないと思っていましたが、それがHPH-MT8だとスピーカーとの差があまりない感じがします。最終的に確認するリファレンスのスピーカーの音と近いんでしょうね。

放送局のヘッドホンとしてカールケーブルとストレートが選べるのは重要。

他にHPH-MT8でいいと思った点はありますか。

ケーブルがカールとストレートで付け替えられるところがいいです。細かいようですが実は僕らにとって重要なんですよ。収録の現場でも、状況次第でカールコードがいいときと、ストレートを使いたいときもあって、実はどちらも同じくらいの割合で使っています。

どんな使い分けがあるのでしょうか。

外の現場だとカールが圧倒的にいいです。ストレートだとフロアや機材に引っかけたりして邪魔になります。一方、スタジオで場所の制約がなければストレートを使います。ラジオの出演者はヘッドホンでモニターするので、カールコードだとちょっと重くて邪魔なのかもしれません。だから、両方使えて簡単に付け替えられるというメリットは大きいです。

ありがとうございます。他にいいところはありますか。

重いじゃないですか、これ。それがいいんです(笑)。私は古い人間なので、機材が重いと安心するんですよね。今どきのヘッドホンってみんな軽いんですよ。私は重いほうが「プロ用」って感じがして、やる気が出ます。

レスポンスが速いので音が太い。
今までの「ヤマハの音」のイメージが払拭されました。

最後に一言お願いします。

僕が持っていた今までのヤマハさんの音の勝手なイメージは「シャープ」。周波数特性はいいんだけど「音にガッツがない」みたいなイメージだったんだけど、HPH-MT8でそのイメージは払拭されましたね。すごく太いというか、決して細くも、弱々しくもない。多分レスポンスの速さがあって、フラットだからだと思います。

FM放送の制作用途でもHPH-MT8は活躍できそうでしょうか。

はい。実は今すでにジャズのライブイベントの収録でいつも使用していますし、今後はロケでも使ってみようかなと思っています。ロケだとたぶん自然音の収録などにすごくいいと思う。たとえば川とか海とか森とかそういうところで自然音を録るんですが、自然音で難しいのは低い周波数の音なんです。どのあたりから下をカットすべきかを判断するのが難しい。鳥の声や水の音、風の音などを録るんですけど、自然音には暗騒音といってベースに常にノイズがあるんです。その低域のノイズをどのくらいカットするか。ノイズは減らしたい。でもカットしすぎると自然音特有の瑞々しさが失われてしまいます。低域のノイズをどれくらいマイクが拾っているかは、今までのヘッドホンだとわかりづらかった。でもHPH-MT8なら、低い周波数のノイズがよく聴き取れる予感がします。

TOKYO FMライブイベント『プレミアムJazz NIGHTS @ GINZA MITSUKOSHI』の
公開収録で活躍するHPH-MT8

本インタビューにご登場いただいた川島 修氏が収録を担当しているTOKYO FMライブイベント「プレミアムJazz NIGHTS @ GINZA MITSUKOSHI」での公開収録の様子をレポートします。

銀座三越で開催された「プレミアムJazz NIGHTS @ GINZA MITSUKOSHI」。
6月30日(金)は秋田慎治トリオが出演。本イベントライブ演奏は放送用に収録され、TOKYO FM「GINZA JAZZzzzz supported 銀座三越」(7月9日(日) 午後8時30分〜 8時55分)にオンエアされました。「GINZA JAZZzzzz supported 銀座三越」は時代を越えて愛され続けている名曲や名演、現在のジャズシーンを伝える最先端のハイクオリティサウンド、発掘された貴重なプレイやこの番組だから楽しめるライブ音源などを厳選してお届けするナイト・ビート・プログラムです。

放送用のブースはステージ脇の上手側に設置されています。ステージ脇でのミックス作業となるため、音声のモニターは全てヘッドホンで。川島氏はHPH-MT8をメインに使用しています。

収録にはデジタルミキシングコンソールQL1が使用されました。2種類のヘッドホンで検聴するためにヘッドホンジャックには二股のアダプターが使用されています。

HPH-MT8と定番ヘッドホンを併用する川島氏。
「ほとんどの作業をHPH-MT8でやっていますが、時々慣れ親しんだヘッドホンに換えてみて、以前ならどう聞こえていたかを確認します。HPH-MT8は高域が良く伸びているので今日のような公開収録の臨場感を出すアンビエンス音をどのくらい混ぜるか、という判断が定番ヘッドホンよりも判断しやすくなりました」

TOKYO FMの公開収録を支えるHPH-MT8とデジタルミキサーQL1。

Profile
1990年 TOKYO FM(エフエム東京)入社。以来、放送エンジニアとして数々のコンサートレコーディング、スタジオレコーディングに携わる。音楽レコーディング以外ではラジオドラマ、ラジオCMのレコーディングや、自然音のサラウンドレコーディングも多く手掛ける。同社の放送スタジオ、音声放送設備の構築も長年担当し、2017年現在、同社技術部長として放送技術全般(マイクロホン、スタジオから送信アンテナまで)のエンジニアリングを統括し、FM放送業界を牽引している。

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