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ナオト・インティライミ HALL TOUR / コンサート / 東京都他

Japan, Aug 2016


RIVAGE PM10 ナオト・インティライミ HALL TOURで活躍

(隔月刊「PROSOUND」2016年6月号より転載 リポート:半澤 公一、撮影:土屋 宏)


「ヤマハPM シリーズ」といえば、アナログコンソールの時代から、この命名を受ける機器には新機軸の搭載や斬新なアイデアなど、前モデルを凌駕する「何か」を載せてプロオーディオシーンに登場してきた。溯ってみると2001年「PM1D」、そして2004年「PM5D」および「PM5D-RH」(いずれもリリース年度)以降、ひと休みしたかのようにも見えるが、その後「M7CL」から「TF」までの流れでデジタルコンソールの裾野を広げる幅広い製品展開がなされ、その結果存在自体が身近なものへと推移。デジタルが、決して特別なコンソールではない環境を生み出した功績は多大といえる。

そして一昨年、「ヤマハ」は「PM1D」リリースより実に14 年ぶりとなるフラッグシップ/ デジタルミキシングコンソール「RIVAGE PM10」を開発。むろん「PM」を冠してフラッグシップモデルに位置づけられ、同年末から発売を開始。「Inter BEE」で実機を目にした方も多いことだろう。今回のリポートでは、同機を早くも導入したSRカンパニー「スターテック」がアーティスト、ナオト・インティライミの『HALL TOUR ~アットホールで、アットホームなキャラバン2016~』で採用したことから、そのサウンドや使い勝手といった、コンソールとしての手応えを、「ヤマハミュージックジャパン」坂場玄知氏に製品情報の補足を受けながら「スターテック」所属エンジニア、高田義博氏に話を訊いた。

高田義博氏プロフィール

プロサウンド(以下PS): 先日の取材日は、ツアー2 日目ということで、慌ただしいときにお邪魔いたしました。ご対応いただきまして、ありがとうございます。まずコンソールのことをうかがう前に、高田さんのプロフィールを簡単に教えていただけますでしょうか。

高田: 1979年の生まれで出身は北海道札幌市です。SRを目指したきっかけは、工業高校で電子機械学科に通っており、元々機械を直す、あるいは触れるといったことが大好きだったので、そうしたことからある音響会社さんの修理部門でアルバイトを始めました。その会社はライヴハウスやリハーサルスタジオなども運営しており、修理を通して様々なマシンに触れるうち、PAという職種があることを知りました。音楽が好きだったのでライヴなどを見せてもらって「楽しそうだな」と。そのうちにスタッフが足りない時など現場を手伝うようになりだしてからは、比重が次第にPAに移っていきました。

PS: その後はどうなさったのですか。

高田: 高校を卒業後、コンサートの仕事をやりたいとの思いが強く、お世話になっていた会社が東京のカンパニー「(株)ムーヴ」さんとつながりがありましたので上京。ラッキーなことに、すぐにホールツアーの現場に入れていただき、そのまま10数年お世話になりました。また、「(株)ムーヴ」さんは「スターテック」ともつながりがあったことから、フリーランスを少し経験した後、「スターテック」に所属いたしました。


PS: 「スターテック」さんへの移籍時期としては。


高田:
 2010年からとなります。2003年頃、「(株)ムーヴ」さん在籍時からテレビ局など、「スターテック」発注の案件やツアーなど、多くの現場を担当いたしました。


PS: そうしたたくさんのご経験をお持ちなのですが、印象に残っているお仕事などは。


高田:
 まだ「(株)ムーヴ」さん在籍時だったのですが、2003年「スターテック」の案件で、あるテレビ局の展望室の円形スペースで360°のシアターをつくり、変則的な7.1chというサラウンドで展開するという仕事がありました。DAWに「Pro Tools」を使い、室内で音を回すことや映像さんとの同期といった、2003年頃では先進的な取り組みでしたので、転機を感じるきっかけでしたね。また移籍後は海外アーティストを担当するようになり、そこからワールドツアーを回って世界中のカンパニーやスタッフ、機材との触れ合いがあり、大きなものを感じているところです。


PS: 高田さんがいつも現場へ出るにあたり心がけている、あるいは大切になさっていることを教えてください。


高田:
 1つは大好きな音楽への理解をもっと深めること。もう1つは機材などが好きだったことから、あえて力を入れることをしなくても、自然と気持ちが向きやすいのですが、少なくとも自分が携わる現場では特に、知らない部分を持ったまま機材を扱うというのが嫌なのです。現場に出る前の時点で精通しておきたい。これも心がけていることのひとつです。今やシステムは複雑化を加速度的に増しているといえます。たったひとつ理解していないところがあるために音が出ない。といったことも起こりうると思うのです。例えばデジタルコンソールで音が出ないといった現象にぶつかったとき、原因が知識の無さによるセットアップ間違いなのか、または機材自体がNGなのか。といったことすらわからないとなると、音響を請け負っている立場として、これはあり得ない。もし自分が求める理想のクオリティまで仮に到達ができなかったとしても、合格ラインを確保するだけの知識や理解は最低限持つべき必要なことと考えています。

「PM1D」から「PM10」へ

PS: それでは「RIVAGE PM10」についてうかがっていきたいと思います。まずは坂場さん、この「RIVAGE」というのはどう読めばいいのでしょうか。

高級感溢れるビジュアルとフレンドリーな操作性を兼ね備えた「RIVAGE PA10」デジタル・ミキシング・システム。ウッドを使った仕上げは「PM」の伝統

坂場: 「リヴァージュ」です、川岸という意味ですね。


PS: 名前の意味するものや由来など興味深いのですが、詳しいことはまた別の機会に譲るとしまして、取材にお邪魔したのが3月8日、「神奈川県民ホール」でした。ナオト・インティライミさんのツアーでしたが、先ほども申し上げましたとおり2日目という、普段なら取材が難しいタイミングでしたが、ありがとうございました。リハーサル時に横から拝見していると、すでに使いこなされているな、とお見受けしました。コントロールしやすそうに見えましたが。


高田: 個人的にコンソールのデザインということでは、段差のない一面型よりも、今回の「PM10」のような画面がせり上がっている2スロープというのでしょうか。そのほうが各操作子に手が届きやすく格段に楽ですね。そうした意味で「PM10」は好きなデザインのグループに属します。


PS: やはりツールですからね。自分で気に入った道具を使いたくなります。


高田: そのとおりですね。


PS: 「PM10」の採用経緯などはいかがでしょうか。


高田: 「スターテック」ではこれまで大型の現場では「PM1D」を使ってきましたが2 年前に新機種「PM10」のインフォメーションがきまして…。

坂場: 発表は2014年11月になりますね。

高田: ちょうどきっかけということもあったかと思います。うちの「PM1D」もそろそろ15 年になり、次第に修理もできなくなってきたことですし、次を考えるべきではと。そこで「ヤマハミュージックジャパン」様にデモをお願いしまして印象が良かったのと、また納品のタイミングもツアーとマッチすることもありましたので。


PS: すでにもう本番でお使いなのですが、大きく2 つのことについて質問をしていきたいと思っています。ひとつは音質などを含めた音のこと。もうひとつは使い勝手がどうかと。今日はこの2点にフォーカスしていきます。まず高田さん、ツアーということで当然運搬が発生するのですが、取り回しはいかがでしょうか。


高田: 重量に関しては、他社の同クラスとさほど変わり無いようです。80kg前後くらいなのしょうか。

坂場: 86kgですね。「PM5D」よりも10kg ほど軽いといったところです。

高田: フライトケースに収納した状態で安全面を考え会館公演では6人で運搬しています。また、操作性につきましては、セレクテッドチャンネルの位置がこれまでの「ヤマハ」コンソールでは左側だったのが「PM10」では右側に移っていますね。これは僕の癖なのですが、右手でヴォーカルフェーダーを握りますので、これまでセレクテッドチャンネルが左手操作で良かったところ、慣れるまで少し時間がかかりました。


PS: それは両手がコンソール上を交差する、あるいは左手が画面をまたぐということですね。


高田: そのとおりです。ただデジタル卓は「ヤマハ」さん以外も含め、いずれどれを取っても慣れの問題だとは思っています。


PS: 位置関連の変更は「慣れ」の範疇程度と言えるくらいということでしょうか。


高田: そうですね。「PM10」ではせり上がっているデザインで諸々の操作子が近いです。「よいしょ!」というようにわざわざ動く必要がない。それが楽です。というのは大きな動きをした場合、盤面での音の反射などで音場が変わってしまう場合が少なくありません。オペレーション姿勢を変えずに手を伸ばせば希望するところに届くことは重要です。

坂場: ほかに今回は細かな部分で、例えばシーンの作り方など今まで弊社がとってきたスタイルからの変更や、あるいは少し考えを変えて取り組むような提案をしています。


PS: オーディオ伝送規格も独自のものと聞いています。


坂場: そうですね。「TWINLANe」(ツインレーン)は独自開発で初めてのものとなります。


PS: 接続に用いるケーブルは同軸、それともLAN ケーブルでしょうか。


坂場: 96kHz/32bitクオリティで400chの信号を低レイテンシーで長距離伝送を行なえるよう、「TWINLANe」では光ケーブルを標準としています。具体的にはI/OとDSP間を光ケーブルでリング接続します。


PS: お話をうかがっている今日は、3月28日なのですが、本番は何本目に? 仕込みやバラシなどを含め、順調ですか。


高田: 昨日で8本終わりましたが、おかげさまで今のところ順調に進行しています。

信頼が持てるミキシングの操作性

PS: では、ミキシングに際しての操作性、先ほどセレクテッドチャンネルの位置のお話もでましたが、リハーサルから本番8本を使われてきていかがでしょうか。

モニターブースのラックに収納された「DSP-R10」エンジンと「RPio622」I/Oラック

高田: これまでの「ヤマハ」コンソールのアプローチを踏襲し、「CL」や「QL」には近いところにいるかと思うのですが、やはり機能そのものが多いですし、表示内容も多くなります。144インプット、72MIX BUS、そして36MATRIX BUS など計108バスと言う数字ですので、メーター表示も単純に多くなり、画面のスペースも占有します。また、ベイが12フェーダー単位で分かれているので、ベイ毎に組むカスタムフェーダーバンクが多くなってますね。自分なりの使い方をアレンジできますので、便利な分、使い込まないとわからないという部分もあります。


PS: ツアーですとミキシングのシナリオを横時間軸で積み上げていけますし、曲毎に細やかな設定などが実現しますね。


高田: そのとおりです。やり方の選択、またフェーダー配置でも良いアレンジが見つかることなど、いろいろと変わってきます。先ほども話しましたが、事前にセットアップを入念にしていますが、何度もレイアウトを最初に戻すといった作業を繰り返しました。しかし「ヤマハ」コンソールの場合は、どのベイにも絶対にINPUTもOUTPUTもチャンネルが存在するので、カスタムフェーダーバンクではなくて単純に、どのベイを使っても同じことができるので便利です。そういった意味では操作性の根源にある、何かアクションをしないと目的のものが見えないといったことがないのでとても便利なのです。また、あるボタンが別のボタンに変わることもほとんど無く、きわめてフレンドリーに作られています。

ずば抜けたクオリティを感じるHAがもたらす新感覚サウンド

PS: さて、それでは核心となる「音」について聞かせてください。まずファースト・インプレッションということではいかがでしょうか。

高田: 僕は音を出した瞬間に解像度がきわめて高いと感じました。96kHzというスペックが要因というのもあるのでしょうが、ただ同じ性能を持つ他社製品ともまた違います。今までの「ヤマハ」製品の流れともさらに違うように思われ、別世界に持って行かれるというのでしょうか。以前のナオトさんも「PM5D」を使ったこともあり、それと比較をしても原音を忠実に再現しますが、僕のイメージする解像度の次元もまた少し違いまして、うまく言えないでのですが、高域も低域も伸びていながら素直。特に高域は、エンジニアによってはハイ上がりに捉える方もいらっしゃるかもしれませんが、正確には高解像度という表現が適切かと思います。


PS: 坂場さん、質感の向上はアナログ部分とデジタル部分それぞれ、さらにその他総合的なものかと思うのですが、高田さんが話された音の良さの要因はどういったところに隠れているのでしょうか。


坂場: やはりHAの部分がとても重要と考え、長期間に渡り入念に開発したところではないでしょうか。むろんフラッグシップモデルに相応しい技術と物量を充分に投入したといって良いかと思います。また前出の大容量伝送を実現する独自ネットワーク「TWINLANe」も関与していると自負している部分です。デジタルコンソールにおけるHAは、音に最も影響をもたらすセクション。度重なる試行錯誤でこだわり抜いたといえるところへ、もうひとつの良さとしてHA部分に搭載した「SILK(シルク)」プロセッシング機能をはじめ、弊社が得意とするホワイトキャンバスに塗る絵の具ツールを多く準備したことでしょうか。


PS: 高田さん、高解像度というコメントが先ほど出ましたが、HAのクオリティについてはどのようにお感じになっているのでしょうか。


高田: これまで様々なコンソールを使いましたが、そこで感じて持っているHAのイメージからは飛び抜けた良さを感じます。弊社の代表である志村(明)も言うのですが、音の居どころが良いというのか、音を出せばそれだけで音楽的なバランスが取れる感じです。普通に入ってきた音を普通に出せば、ステージの音がそのまま出る。平たくもならないし、奥行き感があって音自身が奏でているという…音質的にはふくよかさがありますし、高域の抜けも良い。高い解像度が保たれているんだと言えます。

カラーからチョイス ユニークな新機能“SILK”

PS: 音響でいうところの「普通」って最高の素晴らしさと同義ですね。フェーダーをすーっと上げて「普通じゃん」ってすごい(笑)さて、最後に坂場さんからも先ほど出ましたキャンバスに塗る様々な絵の具。なかでもルパート・ニーヴさんと深く関わった「SILK」プロセッシングがとても気になっています。

コンソールの右上に配置された「ヤマハ」伝統のSelectedChannelセクション。なかでも高田氏は、「SILK」機能はとても重宝するツールと高く評価

高田: 僕自身はとても便利なツールだと思って気軽に使っています。アプローチとしては、まずそうした絵の具を使わずミックスしていきます。そこでちょっとした調味料として「SILK」を加えながら組み立てていくと、EQではできない音の立たせ方ができるのです。選択肢としては「BLUE」と「RED」があり、前者は低域がグッと締まってパンチを持たせながら音を押し出せます。対して「RED」は高域に作用します。抜けが悪いかな、と思ったときに加えていくとミックスのなかからその音だけが一歩近づいてくれます。アコースティックギターやヴォーカルに有効で、やはりEQ で上げるようなピーキーさを伴わずに音づくりができ、とても重宝するツールだと感じています。


PS: この「RIVAGE PM10」コンソール、紹介しきれていない特徴や機能がまだまだたくさんあるのですが、現場で実際にミックスをされたところからの視点でまとめていただくと、いかがでしょうか。


高田: 入出力数は人間ひとりが使える限界と感じるくらい余裕があり、ミキシングキャパシティが大きいと。使い勝手が良くこれは長く使える良いコンソールとまず感じます。そして何よりこれまでと次元が違う音と言いますか、音の良さが格段にアップしていることもあって、そのことが自分自身の腕を上げてくれると言いますか、繊細なミックスをコンソール側から要求されると言ったほうが正確でしょうか。これまで以上に「音が見える」。いままで聴こえていなかったところが認識できることで、例えば以前のような同じフェーダーの動きをしてしまうと、あまりに大雑把となってしまい音の居どころがまったく違ってしまい、音楽のバランスがくずれてしまうほどです。フェーダーの感触も今までとも違いかなり良く慎重で繊細な制御が求められます。そうしているうちに自分自身の耳というか繊細な物差しが身に付いてきて、コンソールに成長させられると思えるのです。そうなればさらに使い方や音づくりが積極的なアプローチへと踏み込める。長く付き合い、使っていけると強く感じる、未来を考えられるコンソールです。


PS: 可能性を感じるという意味でしょうか。


高田: ええ。可能性を秘めたコンソールだと感じて使っています。


PS: すでに実際にお使いになって、点数をつけるとすれば。


高田: それはもう100点、いやそれ以上だと思います。期待値を大きく超えており、これまでに無かった発想が生まれ出ることも考え併せると評価は高いです。

PM10が拡げる次世代への可能性

PS: 良いツールを持つことで、楽器プレーヤーやあるいはエンジニアが目に見えるような速度で腕を上げていくことは以前から言われ、実際に見てきたことでもありますが、「PM10」にも大きく期待ができる、高いクオリティを持つことが、実際の現場を通した声ではっきりとわかりました。それをふまえた上で、敢えておたずねするのですが、最後にぜひ未来予想をお願いします。
今後デジタルコンソールは進化を続けますし、深化ということも同様です。どういった成長をしていけば近未来の理想に近づいていくでしょうか。

高田: ネットワークシステムに今後のポイントがあるように感じます。
今回の「PM10」は「TWINLANe」というシステムを使っていますが、他社さんはまたもろもろ違いますし多岐に渡ります。コンソールがデジタル方式となって機能やアプローチが豊富になっていくことは賛成なのですが、選択肢が増える分、使い手側は悩むことが増えますし、実際コストもかかります。個人的には方式やプロトコルのことを考えずに、すべての機器を接続できるポートを備えているコンソールやシステムがあればと。技術的にも不可能なことではないですし、そうすればさらなる進化形として「Apple」社の「iPad」なども含め、サーフェイスの選択が可能になると思います。
さらにステージボックスも演目に見合ったもの、あるいはエンジニアが好むものを選んで、垣根を越えたシステム構築ができます。そうなればもっと成長していける部分も少なくないですし、長く使える製品も多くなると思うのです。


PS: お話をうかがっていると期待と可能性、またさまざまな興味が湧いてきますね。ありがとうございました。ともあれ今回の新しい「RIVAGE PM10」。単に性能向上といった点だけでなく、使い手であるエンジニアにも変化が生まれるという、とても興味深いコメントの数々でした。それにより、これまでに無かった新しい使い方や、独自といえるミックスが誕生することを期待しています。本日は長い時間ありがとうございました。

データ

製品情報 RIVAGE PM10

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