Better Sound for Commercial Installations

Part 2: Amplifers and Speakers

スピーカーシステムの配置方法の検討にあたっては、拡声する空間の用途や規模に応じた十分な音圧レベルを、室内に均一に届けられるように計画します。スピーカーシステム自体の性能ももちろんですが、配置方法の検討も良質な音環境を実現する上で非常に重要なポイントとなります。

スピーカーシステムの配置方法は、音の方向感を出すか出さないかで、以下の2つに大別されます。

音の方向感を出さない場合(分散配置)

スピーカーシステムを分散して配置し、空間全体を均一な音圧レベルにする方法です。このようなスピーカーシステムの配置を「分散配置」と呼びます。分散配置は、音の方向感より、どこにいても一定の音量および音質を確保することに重点をおいています。アナウンスやBGM用の拡声設備で用いられます。

音の方向感を出す場合

スピーカーシステムを一方向、あるいは一ヵ所にまとめて配置する方法で、聴衆は音の方向感を感じることができます。基本的には、聴衆が動き回らずにほぼ定位置で音を聞き、かつ音の方向感が重視されるライブ・イベント用の施設で多く用いられます。

この2つの配置方法を併用することもあります。スピーカーシステムを一方向、あるいは一ヵ所にまとめて配置しつつ、それだけでは十分な明瞭度や音量が得られないエリアに分散して配置する方法です。大きな空間や響きの多い会場で音の方向感を確保しながら、空間全体に均一な音圧レベルを実現したい場合に用いられます。

Marching Keyboards

以上の配置方法を選択した上で、スピーカーシステムの機種および台数を検討します。その際に重要な指針となるのが「音圧レベル」です。

言うまでもなく、拡声の主目的は聴衆に音を伝えることですから、音響システムの音が周囲の騒音でかき消されてしまうようでは意味がありません。そこで、人の出入りやさまざまな環境条件によって発生する騒音量をあらかじめ想定し、騒音量よりも一定以上大きい音圧レベルを常に拡声できるようにします。一般的にアナウンス放送の場合は6dB以上、BGMの場合は3dB以上、それぞれ騒音量よりも大きくすると良いと言われています。

以上を踏まえた上で、各施設の平均的な騒音量および必要な音圧レベルの目安を大まかに示しておきます。

図:騒音量と必要な音圧レベルの目安

以上、音圧レベルの観点から説明を進めてきましたが、「それでは、実際に何台くらいのスピーカーシステムを設置すれば良いの?」と考えると、専門知識を持ったプロフェッショナルでなくては、適切な数字を割り出すのは難しいというのが正直なところです。あくまで参考としてですが、分散配置時のスピーカーシステムの配置の考え方を、サーフェスマウントスピーカーとシーリングスピーカーの場合で、それぞれご紹介しておきましょう。

サーフェスマウントスピーカーの分散配置

音圧にムラが生じないよう、室内を均一にカバーできるように必要台数を決めます。壁に取り付ける際、取付金具を調整して適切な高さおよび下振り角度で設置するようにします。スピーカーシステム1台あたりが受け持つカバーエリア内でもスピーカーシステムから一番近いリスニングポイントと一番遠いリスニングポイントでは距離減衰により音圧レベルに差が生じます。したがって、リスニングポイントによって音が大き過ぎたり、逆に小さ過ぎたり、ということがないように配慮する必要があります。距離減衰については、この後、改めてご紹介します。

シーリングスピーカーの分散配置

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図を見ていただくと分かるように、シーリングスピーカーは天井とリスニングポイント間の距離が短いほど1台でカバーできるエリアが狭くなリ、必要台数も多くなります。したがって天井高が低い場合は、サーフェスマウントスピーカーを用いた方が効率的な場合もあります。

ただし天井高だけではなく、想定するリスニングポイントの高さが立っている位置か座っている位置かによってもカバーエリアが変わってきます。また天井が高い場合は、カバーエリアが広くなるので、より高出力のスピーカーシステムが必要になります。設置間隔は音圧にムラが生じないよう、室内を均一にカバーできるように配慮します。

図左:シーリングスピーカーのカバーエリアと天井高の関係

図右:シーリングスピーカーのカバーエリア(天井から見たイメージ)

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音の方向感を出すためにスピーカーシステムを一方向、あるいは一ヵ所にまとめて配置するライブ・イベントなどの場合、アナウンス放送やBGMとは必要な音圧レベルの割り出し方が異なります。一般的には、最大で100dBくらいの音圧レベルを良質な音で拡声できるシステムを目標とすることが多いようです。その場合、会場の最前列で100dBの音圧を得られたから、それで良いかと言うとそうではありません。

なぜなら、スピーカーシステムから出た音は距離を経るにつれて音圧が減衰していくのです。参考として、反射音を無視した場合の距離と音圧の減衰量の関係を下記に示します。距離が2倍になると音圧は6dBずつ減衰します。

【注意】コラムスピーカーやラインアレイスピーカーを使用した場合の減衰量は、原理の違いから、これよりも小さくなります。

表を見ると分かるように、最前列(1メートル)では100dBの音圧を得られたとしても、スピーカーから32メートル離れた場所では30dBも音圧が減衰するため、70dBの音圧しか得られないのです。それでは、あらかじめ30dB分の減衰を見込んで、スピーカーシステムから130dBで拡声すればどうでしょうか。この場合、32メートルの地点では100dBの音圧が得られるようになりますが、今度は最前列に問題が発生します。なぜなら、130dBという大音量を直に受けることになるからです。Part 1の「「音の仕組み」でご紹介したとおり、人間が聞くに耐えられる最大の音圧は約120dBと言われていますから、それを超えた音圧では聴衆に肉体的な苦痛を与えてしまいます。

このようにスピーカーシステムを一方向、あるいは一ヵ所にまとめて配置する場合は、音の減衰をあらかじめ見込んだ上で設計し、場合によっては冒頭でご紹介した分散配置との併用なども検討する必要があります。

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広い空間において多数のスピーカーシステムを使用する場合に注意すべきポイントとして、「音色」と「位相特性」の問題があります。

音色の統一

スピーカーシステムは機種ごとに音色に特徴があることが多いため、ひとつの空間に異なる機種を設置する場合、それぞれのスピーカーシステムのカバーエリアごとに音色が変わってしまう恐れがあります。

位相の相互干渉

同じ音声信号を2つ以上のスピーカーシステムあるいはスピーカーユニットで同時に鳴らす場合、位相の相互干渉が問題になることがあります。例えば複数のスピーカーシステム同士でリスニングポイントまでの距離が異なると位相の相互干渉が発生し、特定の周波数が打ち消されたり強調されたりすることがあります。

特にスピーカーシステム同士の位相特性が大きく異なっていると音響上の問題が発生しやすくなります。スピーカーユニット同士も同様で、例えば2ウェイスピーカーの場合、高音域用と低音域用のスピーカーユニット間で周波数帯域が重なる部分があります。これをクロスオーバー周波数と呼びますが、スピーカーユニット同士が位相の相互干渉を起こしていると、クロスオーバー周波数付近の音が不自然になってしまいます。

音色や位相特性の問題はもちろん、施設の空間特性など、さまざまな課題・条件を考慮しながら適切にスピーカーシステムを設置・チューニングすることは、まさに音響のプロフェッショナルの腕の見せ所です。ただしその前段階として、このような音響特性上の課題を考慮した上で設計されたスピーカーシステムを選択するようにしたいものです。

例えばヤマハの設備音響用スピーカーシステム「インストレーションシリーズ」は、小規模から中規模用まで多彩な機種を揃えながら、シリーズ全体で音色の統一を図っています。そして特筆すべきは位相特性の徹底追求で、全機種間で位相特性の統一が図られています。そのためインストレーションシリーズから複数機種を組み合わせて使用すれば、設置・チューニング作業の大幅な省力化を図りながら良質なサウンドを実現します。

図:ヤマハ「インストレーションシリーズ」のコンセプトは、全機種で統一された音色と位相特性を実現すること。多数のスピーカーシステムを使用する商業施設に圧倒的なアドバンテージを実現しています。

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最後に音圧レベルに関連した話として、スピーカーシステムのスペック欄に掲載されている「出力音圧レベル」についてご紹介しておきましょう。

出力音圧レベルは、スピーカーシステムの前面軸上1メートルの位置に測定機器を置き、スピーカーシステムに1Wの電気信号を加えた時に出力される音圧レベルを測定したものです。つまりパワーアンプが一定の出力をした時に、それを受けてスピーカーシステムがどの程度の音圧レベルを実現できるかを示しています。

数値が高いほど、能率が高いスピーカーシステムだと判断できるわけです。 ここでパワーアンプの出力と、それによって増加する音圧レベルの関係を表に示しました。表を見ると、音圧レベルを3dB増やすためにはパワーアンプの出力を倍にしなくてはいけないということが分かります。

再び出力音圧レベルの話に戻りますが、商品カタログで複数のスピーカーシステムの出力音圧レベルを比較すると、数値的には差が小さいように感じられます。しかし、音圧レベルを3dB増加させるためにはパワーアンプの出力を倍にしなくてはいけないことを考えると、実はその差が大きいことに気が付きます。 例えば出力音圧レベルが99dBのスピーカーシステムAと96dBのスピーカーシステムBがある場合、Aは1/2のパワーアンプの出力でもBと同じ音圧レベルを出せることになります。したがって長い目で見ると、電気代をはじめとする運用コストで大きな差が生じる可能性があります。もちろん出力音圧レベルの数値だけでスピーカーシステムの性能をすべて判断できるわけではありませんが、スピーカーシステムを選択する際の大切な要素のひとつと言えそうです。

以上2回にわたって、スピーカーシステムの選択に必要な基礎知識をご紹介しました。スピーカーシステムの仕様が固まったら、今度はパワーアンプの検討です。パワーアンプの選択はスピーカーシステムとの相関関係で決まるため、次でご紹介する両者の接続の仕組みを知っておく必要があります。