Better Sound for Commercial Installations

Part 3: Mixers and Processors

イコライザーを活用したハウリングの抑制は、音響のプロフェッショナルが関わっている限りは有効なプロセスですが、専任の音響オペレーターが常駐しない施設では問題が生じる恐れがあります。それはどういうことか、そしてそのような制約を解決するためにはどうすれば良いのかをご紹介します。

「ハウリングの抑制~イコライザーの活用」 でご紹介した作業は、基本原理は明確ですが実際の作業はプロフェッショナルでなくては難しいのが現実です。例えば正確にハウリングポイントを見つけられないと、下げるポイントばかりが増えて全体の音量が下がり、パワーのない音になってしまいますし、音響特性が乱れて音の明瞭度が下がってしまうこともあります。つまりイコライザーを活用したハウリングの抑制は、経験を積んだプロフェッショナルが関与していないと、思うような効果をあげられないだけでなく、「ハウリングは起こらなくなったけれど音質が悪くなってしまった」ということにもなりかねないのです。

もちろん施工の一環として、ハウリング対策も含めたチューニングをプロフェッショナルがおこなっていれば、以上のような事態は防げます。しかし、そのようにして事前にしっかりとハウリング対策を施していても、実際に運用を始めると突発的なハウリングに見舞われることがあります。特に話者がマイクロホンを持ちながらスピーカーシステムの前に移動した場合や、話者の声が小さいなどの理由で音量を上げ過ぎた時に、突発的なハウリングは発生しやすくなります。

専任の音響オペレーターがいればハウリングが起きても都度対処が可能です。しかし会議室や講義室など専任のオペレーターがいない施設で、話者が自分でマイクロホンの音量調整などをおこなう場合、日常的にマイクロホンに触れる機会がある方たちばかりではないでしょうから、ハウリング抑制への配慮を求めるのは難しいですね。またハウリングの発生を気にしながら議事や講義を進行するようでは話者の集中力を削いでしまいますから、その施設の使い勝手を大きく損ねることにもなりかねません。

以上のような課題を解決するためには、どうすれば良いのでしょうか。答えはデジタル技術の活用にあります。すなわち人が手動で作業しなくても、デジタル信号処理により自動的にハウリングを抑制してくれる「フィードバックサプレッサー」という機能を活用するのです。「フィードバック」とは、一連のシステム系統における出力を入力側に戻すことを指します。音響システムに当てはめると、スピーカーシステムから出た音がマイクロホンに戻ること、つまりハウリングを意味します。そして「サプレッサー」は「抑制器」という意味です。つまりハウリングが発生している周波数帯域を自動的に検知して、そのレベルを下げる機能ということになります。

フィードバックサプレッサーは、その施設で増幅しやすい周波数帯域を検知してあらかじめ下げておく事前のハウリング抑制作業と、運用中の突発的なハウリングの抑制にそれぞれ対応できます。

この機能を活用するメリットは大きく2点あります。1点目はデジタル信号処理によりハウリングポイントを正確に検出できるため、ハウリング抑制による音質への影響を抑えられます。2点目はハウリングの抑制を自動化することで専任のオペレーターが常駐しない施設でも安心して音響システムの運用がおこなえることです。

フィードバックサプレッサーは、ヤマハのラインナップではパワードミキサーEMX5016CFやデジタルインストレーションミキサーIMX644、デジタルミキシングエンジンDMEシリーズに機能のひとつとして搭載されています。機種ごとにそれぞれ効果が異なりますが、これらの機器が音響システムの中に組み込まれていれば手軽に活用できます。

Marching Keyboards

(写真:フィードバックサプレッサーを搭載したヤマハの機器例(左からEMX5016CF、IMX644、DMEシリーズ))

いかがだったでしょうか。フィードバックサプレッサーを活用すれば、より手軽に音響システムを運用できるようになりそうですね。同様に、音響システムの運用を大幅に省力化できる便利な機能が他にもありますので、次からご紹介していくことにしましょう。