Cisco SG300の設定

マルチキャスト設定

マルチキャストを使用する場合は、IGMP Snoopingを設定してください。ただし、マルチキャストの使用は必要最低限になるようにご注意ください。Danteの初期設定はユニキャストで、中小規模のDanteシステムではマルチキャストは必要ありません。マルチキャストの必要性を理解するためには、「フロー」も理解する必要があります。

Danteによるオーディオ信号の送信方式には2種類あります。1対1で特定の機器にのみ送信する「ユニキャスト」と、ネットワーク内の複数の機器に送信する「マルチキャスト」です。初期設定ではDanteのオーディオ信号はすべてユニキャストで送信していて、通常これを変更する必要はありません。では、ある機器から複数の機器に同じオーディオ信号を送信する場合は、どちらがいいでしょうか。

ユニキャストの場合は、送信先の数だけ重複してパケット(音声信号)を送信します。重複していることを意識せずに個別にルーティングを設定できます。ネットワーク帯域の効率利用という観点ではベストではありませんが、スイッチへの負荷が少ないので、ルーティングの設定しやすさも含めて通常はユニキャストを推奨します。

マルチキャスト設定

一方マルチキャストでは、1つのパケット(音声信号)をスイッチで分岐して複数の機器に分配します。一見マルチキャストが万能のように見えますが、スイッチはすべてのポートにパケットを複製して転送しようとするので、スイッチへの負荷が大きくなります。また、そのパケットを必要としないポートにも送信されてしまうデメリットもあります。これを制御するのがIGMP (Internet Group Management Protocol)です。機器ごとに必要とするマルチキャストアドレスを通知するために、それぞれの機器からIGMPメッセージを送信します。

また、スイッチはそれぞれのマルチキャストアドレスを必要とする機器がどのポートにつながっているかを記憶して、マルチキャストデータを制御する必要があります。この機能をIGMPスヌーピングと呼びます。したがって、マルチキャストでオーディオ送信する場合は、必ずスイッチのIGMPスヌーピング機能を有効にする必要があります(さもなければ、すべてのポートにマルチキャストパケットを複製して転送してしまいます)。ただし、IGMPスヌーピングが動作して意図したとおりにマルチキャスト送信されるまでには、マルチキャストを必要とする機器がスイッチのどのポートにつながっているかがスイッチに通知されるまでの時間(数十秒ほど)を必要とする場合があることを覚えておいてください。さらに、マルチキャストはDante Controllerソフトウェアからのみ設定できる特殊な設定であること、マルチキャストはスイッチに対する負荷が高くなることも覚えておいてください。

ほとんどの場合、ケーブルを流れるオーディオデータが512チャンネル(48kHz時)を超えることはないので、通常はユニキャストがよい選択と言えるでしょう。では、どうしてもマルチキャストが必要になるのはどのような場合でしょうか。それは送信機器で「フロー」が足りなくなった場合です。

Danteのオーディオルーティングを設定すると、自動的にフローが作成されます。フローはオーディオデータを送信する単位で、複数のチャンネルをフロー単位でまとめて送信します(CobraNetのバンドルに相当します)。ユニキャストフローは最大4チャンネルのオーディオを含みます。たとえば、チャンネル1をある受信機器にパッチすると、他のチャンネルがその受信機器にパッチされていなくても、4チャンネル分のサイズのパケットが送信されます。同じ受信機器に対するパッチは、チャンネルが空いているフローがあれば優先して使用されるため、4チャンネルが埋まるまでは新しいフローは生成されません。

また、送信機器および受信機器には設定可能なフロー数に制限があります。たとえば、CL/QLシリーズコンソールやRシリーズI/Oラックはすべて送受信とも32フローに対応しています。32アナログ入力を備えたRio3224-Dが32チャンネルすべてを1台のDante機器に送信するためには32/4=8フローで十分ですが、送り先の機器(たとえばCL/QLシリーズコンソールなど)4台にユニキャストフローで分配すると8x4=32フローすべて消費します。

さらに、上記の例で送信できる最大チャンネル数は32x4=128ですが、フローは送り先のDante機器ごとの4チャンネル単位で作成されるため、4チャンネルを使い切らないフローがあるとその分使用できるチャンネル数は128よりも少なくなります。したがって、送信機器で送信フローが足りなくなった場合はマルチキャストを使用してフロー数を減らす必要があります。また、Dante Controllerソフトウェア上で送信フロー数を確認することができ(Device View→Transmitタブ→Transmit Flows)、フローが足りなくなるとメッセージが表示されます。また受信機器でも、たとえば多数の機器から1チャンネルずつ受信するなどの特殊なケースでは受信フロー数が制限を超える可能性もありますが、この場合はマルチキャストでもフローを減らせないのでルーティングそのものを見直す必要があります。

結論として、送信フローが足らなくなったら、Dante Controllerソフトウェアでマルチキャストを設定して、使用フロー数を減らせるようにネットワーク設計を見直してください。その場合の設定は、CL/QLシリーズコンソールやMTX-MRX EditorのようなDante機器やソフトウェアから設定できるパッチ機能は使わずに、Dante Controllerのみでパッチを設定してください。ただし、マルチキャストフローはスイッチに対する負荷が高くなるので、必要最低限のマルチキャストフロー数(チャンネル数)になるようにご注意ください。マルチキャストフローは、より効率的に送信できるように最大8チャンネルのオーディオを含むことができます。

以上を理解した上で、マルチキャストが必要な場合は以下の手順でIGMPスヌーピングなどのマルチキャスト用の設定を行ってください。

最初に、以下のページでブリッジマルチキャストフィルタリングステータスを「有効」にします。マルチキャストを使用するVLAN ID(この例ではVLAN 2をDante用に想定)を選択して、フォワーディング方式を「IPグループアドレス」に設定します。

次に以下のページで、IGMPスヌーピングステータスを「有効」にして適用します。また、IGMPスヌーピングの設定を編集するために、マルチキャストを使用するVLAN ID(この例ではVLAN 2をDante用に想定)を選択して「編集」をクリックします。

IGMPスヌーピングステータスを「有効」に、マルチキャストルータポート自動学習を「有効」に、IGMPクエリアステータスを「有効」に設定します。また、クエリー間隔を「30(秒)」、IGMPクエリアバージョンを「IGMP V3」に設定することを推奨します。クエリー間隔が大きいと、マルチキャストが正しく動作するまでに必要な時間が長くなります。DanteはIGMP V2およびV3の両方に対応していますが、同じネットワーク内のスイッチは同じバージョンで動作するようにご注意ください。IGMP V2のみに対応したスイッチが一台でもある場合は、IGMPクエリアバージョンを必ず「IGMP V2」に設定してください。

複数のスイッチを跨ってマルチキャストを使用する場合は、マルチキャストルータポートが必要となります。このポートを通じて、スイッチ間でマルチキャストやIGMPメッセージが送信されます。マルチキャストルータポートが設定されていないと、スイッチ間で不要なマルチキャストパケットが送信されてしまったり、逆に必要なマルチキャストパケットが送信されなくなりなったりします。たとえばMTXシステムではシステム間のプリセットリコールが連動しなくなります。上記の設定では、自動学習を有効にしているので特別な設定は必要ありません。他のスイッチを使用する場合は、スイッチ間をつなぐポートをマルチキャストルータポートに指定する必要があります。

ネットワーク上でIGMPクエリアは1台のみ存在している必要があります。クエリアが複数台存在してもマルチキャストは動作しますが、IGMPメッセージが重複して送信されることになります。上記の設定では、クエリアを自動にしているので特別な設定は必要ありません(ネットワーク上のいずれかのスイッチが自動的にクエリアとなります)。異なる設定のスイッチが混在する場合は、ネットワーク上で1台のみクエリアが存在するように設定してください。

最後に、Wi-Fiアクセスが同じネットワーク内に混在する場合(たとえばマトリクスプロセッサーMTX/MRXシリーズをコントロールするためのiPhoneアプリWireless DCPなど)は、機器を検出するために使われるマルチキャストアドレス(マルチキャストはオーディオ以外にも使われます)を登録しておくことを推奨します。ネットワーク内にWi-Fiアクセスが混在する場合、接続されたアクセスポイントによってはIGMPメッセージを正しく転送しないため、IGMPスヌーピングが意図どおりに動作せずにアクセスポイント経由で機器を検出できなくなる可能性があります。それを予防するために、該当するマルチキャストアドレスをあらかじめスイッチに登録しておくことで、確実に機器を検出できるようになります。以下の手順で、アクセスポイントが接続されるスイッチのみに設定してください。

以下のページでマルチキャストアドレスを登録します。「追加」ボタンをクリックするとポップアップが表示されます。該当するVLAN ID(この例ではVLAN 2をDante用に想定)とIPマルチキャストグループとして、「224.0.0.251」を指定して「適用」します。

最後に、登録したマルチキャストアドレスを該当するポートに割り当てます。先ほど登録したマルチキャストアドレスを選択して、「詳細」ボタンをクリックするとポップアップが表示されます。該当するポート(トランクポート含む)を「スタティック」に設定して「適用」します。

以上でスイッチのマルチキャスト設定が完了しました。設定を変更したので忘れずに保存してください。